『三国志』あれこれ

最近、『三国志大戦』というセガ社が開発した斬新なアーケードゲームの影響もあってか、世間では再び『三国志』ブームの兆しを見せているようだ。

個人的にあの安っぽいカードになじめず、散財せずに済んでいるが。全部王欣太氏の絵だったりすれば話は別だったかもしれない。それにしても皆さん、一回300円のゲームなんてようやらはりますな。

前置きはその辺にして、かの三国志漫画の傑作、『蒼天航路』がついに完結した。最後はドカンと2巻同時刊行というところが作品同様男らしい。

蒼天航路(36)<完> (モーニング KC)

蒼天航路(36)<完> (モーニング KC)

完結編が載ったモーニング(完結巻と同じ表紙のもの)で曹操の最期のシーンだけは読んではいたものの、まとめて読むと改めてその重厚な物語に圧倒される。

三国志漫画というと小学生のころ父親に買い与えられて初めて読んだ、横山光輝三国志』全60巻(当時はまだ完結していなかったが)が自分の中でのスタンダードになっている。

横山光輝三国志大百科 永久保存版

横山光輝三国志大百科 永久保存版

これは吉川英治作の小説を忠実になぞったものだが、『三国志』そのものが持つ、群雄割拠の壮大な物語性と横山光輝の漫画化手腕によって、大人になって読み返しても夢中になって読みふけってしまうほどの完成度となっている。特に面白いのは徐庶が出てきたあたりから、孔明の登場、赤壁のい戦いあたりで最高潮を迎え、劉備が蜀王となるあたりまで。その後は関羽が死に曹操が死に、今まで大活躍してきた蜀の武将たちが次々に死んでいくという悲しい物語となり、結局天下統一を目前に最後の砦である諸葛亮の死とともに物語りは終わりを迎える。
このように、横山『三国志』は世間一般で言うところの『三国志』。主人公は劉備玄徳および諸葛亮孔明であり、魏の曹操は天下の大悪人という世界観となっている。

一方『蒼天航路』はこれとは異なり、曹操孟徳を主人公とする物語。曹操が生まれ、黄巾賊を飲み込み、袁紹との長い戦いを経て、赤壁の大敗、北伐、儒者との対立、等々今まで見てきた『三国志』を違った側面から見せてくれる。またキャラクターデザインも個性的で、きらびやかで装飾過多な孔明、トラを連れて関西弁をしゃべる孫権、無邪気な許楮、宇宙人みたいな諸葛謹、いきなり太る袁紹、バーバリアンな呂布、神のように高潔で無敵に描かれる関羽、同じ作者の過去の作品である『地獄の家』に登場する怪人北晴郎を思わせる董卓、挙げればキリが無いくらいの個性的なキャラクターたちのオンパレード。

地獄の家 (上) (講談社漫画文庫)

地獄の家 (上) (講談社漫画文庫)

常に地に足のついた目線で淡々と描かれていく横山『三国志』とは異なり、『蒼天航路』はキャラクターの心象風景に入り込んで急に空を飛んだり、シュールな象形が現れたりなど、自由奔放な表現も、絶妙のバランスで織り込まれており、作品の個性となっている。原作者が途中で亡くなったらしく、確かに途中から幻想の比重が増したようにも思えるが、まあ『地獄の家』の後半の壊れっぷりに比べれば、きっちり物語として破綻せずに最後まで描ききられていると思う。
それにしても関羽を捕まえた怪人のいきなりっぷりには驚いた。あそこまで神格化させてしまった関羽を捕まえる者となるとああいう人間離れしたキャラクターを登場させるしかなかったのかもしれないが。

他にもブームということもあり、三国志のみの漫画雑誌が刊行されたりもしているようで、次々に『三国志』を題材とした漫画が登場してきているようだ。今のところこれらの中でイチ押し作品は、池上遼一先生の『覇-LORD-』。

覇 1―LORD (ビッグコミックス)

覇 1―LORD (ビッグコミックス)

これは、本当の劉備を殺して劉備を名乗ることになる倭人の男が主人公となっている。いつもの池上漫画と同じくヤクザなノリで壮大な抗争が繰り広げられていく。関羽劉備曹操のどちらにつくべきか悩んだりするあたりが新鮮かもしれない。呂布なんて西洋人みたいになっている。現在4巻まで出ているが、この先が楽しみな漫画。『三国志』から脱線してしまうが、池上遼一先生といえば、『サンクチュアリ』がオススメ。2人の男がそれぞれヤクザと政治の道で天下取りを目指す物語。何度読み返しても面白い。
サンクチュアリ (5) (ビッグコミックスワイド)

サンクチュアリ (5) (ビッグコミックスワイド)

三国志』モノで他に読んでいるのは、『火鳳燎原 』くらい。この漫画は魏の有名な知将で後に諸葛亮のライバルとなる司馬懿仲達を主人公とした作品というところが珍しくて読み始めた。こちらはまだ2巻までしか出ておらずこれからの盛り上がりに期待したい。今のところ絵はキレイだがイマイチ物語としては面白みに欠けており、キャラクターの描き分けも今ひとつに思える。
三国志群雄伝火鳳燎原 1 (MFコミックス)

三国志群雄伝火鳳燎原 1 (MFコミックス)

また色々『三国志』モノが出てくるだろうが、横山『三国志』と『蒼天航路』を越える作品はそうそう現れないと思う。次は孫氏を主人公に呉の物語を誰か描いてくれないかな。地味だけど。

次は『三国志』ではないだろうが、王欣太氏の続編にも期待したい。