『2001夜物語』

今まで読んだSF漫画の中で一番良かったものを挙げろと言われれば迷わずコレ。
星野之宣作『2001夜物語』全3巻の壮大なSFオムニバス。

2001夜物語 (Vol.1) (Action comics)

2001夜物語 (Vol.1) (Action comics)

2001夜物語 (Vol.2) (Action comics)

2001夜物語 (Vol.2) (Action comics)

2001夜物語 (Vol.3) (Action comics)

2001夜物語 (Vol.3) (Action comics)

最近、単行本未収録作を含む短編集が上梓されたので一通り読み返してみた。
2001+5―星野之宣スペース・ファンタジア作品集 (アクションコミックス)
この短編集は未完な作品など今まで作者自身も単行本に収録するつもりの無かった作品を編集者の熱意で単行本化したものというだけあって、正直それほど面白くは無いが、アーサー王伝説に引っ掛けたSF長編(思いっきり未完)など、作者の、アイデアを作品にしようとするパワーが感じられ、星野ファンなら楽しめると思う。

で、本題の『2001夜物語』。
これは、ワープ航法技術が生まれる前夜から始まり、反物質で出来た星の発見から、反物質を利用したワープ技術が生まれ、人類が外宇宙へと広がっていく過程を描いた壮大な物語。
オムニバス形式の中短編でそれぞれ完結した物語となっているが、中には相互に関連した物語も多く、再読すると様々なつながりに気付かされる。
特に、ロビンソン一族の物語が興味深い。ネタバレになってしまうので具体的には語れないが、ワープ航法の発達により、先に外宇宙を目指した宇宙船を後から飛び立った宇宙船が追い越してしまうというアイデアを見事に物語として昇華させている。また宇宙の航海に適した能力を持つ人間の話や、生身の人間では超高速航行に耐えられないので、受精前の精子卵子を宇宙船で外宇宙に送り出す計画、宇宙で進化した新人類には旧人類の遺伝子が必要といったエピソードなど、SF的なアイデアが数え切れないほど盛り込まれており、また、絵も素晴らしく緻密で、様々なSF的なガジェットのデザインもうまく構築されていて感心する。
各話のタイトルにも見られるように、有名なSF小説をモチーフとした物語などもあり、それらを知っているとより楽しめるのではないだろうか。

同氏の著作『べムハンターソード』も同様だが、異星の特殊な生態系を描かせると右に出るものはいないと思う。

ベムハンター・ソード 1 (KCデラックス)

ベムハンター・ソード 1 (KCデラックス)

この『ベムハンターソード』は、依頼を受けて希少な宇宙生物(ベム)を捕獲することを生業にする男の物語。様々な星に降り立ち、珍しい生き物を探す過程で、それらの特殊な生態系と、毎回登場する様々な人間達のドラマがうまくリンクしており、非常に上質な物語が描かれる。

最近では、ある実験惑星上での生物達の生存競争の中から生まれた最強生物に侵略される宇宙船を描いた、『コドク・エクスペリメント』がなかなか面白い。ハリウッドでこういう宇宙アクションモノの大作が作られなくなって久しいので、こういうの好きな人にとってはありがたい一品。

まだまだ新刊も定期的に出版されており、次の作品が楽しみな作者の一人である。